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2014年度優駿エッセイ賞落選作品 それでも僕は帯広に

14/10/26

 この作品は雑誌『優駿』で毎年行っている「優駿エッセイ賞」に2014年度に応募したものです。2004年に応募した時は初の応募ながら1次選考を通過しましたが、今回は見事に(10年連続)1次選考で落選しました。入選作の著作権はJRAに帰属することになっていますが、本作品は入選はしていないので著作権は私にあると判断し、この場を借りて公開します。例年より1ヶ月遅い公開ですが、10年前と違って1次選考を通ったのではなく、全体のスケジュールが例年よりも1ヶ月遅くなったので優駿11月号を見るまで1次選考落ちを確認でなかっただけです(苦笑)。

それでも僕は帯広に

 すでに入着馬の入線順位が決まってしまっていても、最後の1頭がゴールするまでほとんどの観客がレースを見守っている。最後の馬がゴールすると拍手が沸き起こる。着順に関係なく、走り終えた馬達に多くの観客から温かい拍手が贈られる。テレビやインターネットの動画配信では決してわからない、場内の独特な雰囲気。そんなレースが日本に3つだけある。中山大障害、中山グランドジャンプ、そしてばんえい記念だ。
 その中でも特にばんえい記念は現地まで出かけて生で観る価値があるレースである。ばんえい競馬は平地競馬よりもずっと観客と馬が一体化した競馬であり、モニター越しで観るより生で観た方がずっと魅力的だ。平地競馬の様にレースのほとんどをモニターで見ていて馬群が一瞬だけ目の前を通り過ぎていく競馬よりも、スタートからゴールまで馬が目の前にいて、競走馬を身近に感じることができるばんえい競馬は、より生で見る価値がある。特に帯広競馬場ではエキサイティングゾーンという、馬群と一緒に移動しながら観戦できる場所があり、馬と一緒に走りながらレースを間近で見て観客と現場が一体となってレースを楽しむことができる。私がばんえい競馬に興味を持ったのも、現場での雰囲気に魅了されたからだ。

 そのばんえい記念は、ここ数年生で見ているが、今年もばんえい競馬の頂上決戦ばんえい記念を観戦しに行こうと思った。1月の始めぐらいに3月下旬に行われるばんえい記念当日の飛行機を早割でチケットを買った。早割で飛行機のチケットを買うとキャンセルした場合のキャンセル料が高いが、ばんえい記念当日は絶対に帯広に行くつもりだった。
 しかし、当日は一口馬主として出資しているインプロヴァイズが中山競馬場の準メインレース韓国馬事会杯に出走することに決まった。関東に住んでいるのだから中山に愛馬が出走、しかもかなり勝算があるとなればぜひ観に行きたいものだ。体が2つ欲しい。飛行機のチケットは早割で取ってしまっていてキャンセル料が高い。高いキャンセル料を犠牲にしてまで近場の中山のレースを観に行くぐらいなら、当初の予定通り帯広に行ったほうが良いだろう。

 というわけで当日は朝一番の飛行機で羽田空港からとかち帯広空港に向かった。帯広空港からバスに乗る。空港からのバスは帯広駅経由で競馬場まで直行するのだが、競馬場まで直接行かずに帯広駅で降りた。帯広名物のインデアンカレーを食べるためである。昨年の帯広記念の時は街中にある店舗に行ったら開店時刻が11時らしく開いてなかった。その後調べてみると、駅前の長崎屋にある店舗だけは10時開店らしい。そこで長崎屋に行ってインデアンカレーを食べた。帯広に来るたびに食べたくなる旨さである。
 そこから徒歩で帯広競馬場へ。途中道を間違えてちょっと遅くなったが競馬場の入り口にあるとかちむらという屋台村に到着。そこで買い物なり飲食をすると競馬場の無料入場券をもらえるので、30分前にカレーを食べたばかりなのに再び食事をすることとした。 その時食べたのが「牛乳ラーメン」というキワモノ。奇妙なメニューだが、物珍しさで挑戦してしまった。一体どんな味がするのだろう?この意外な取り合わせがいいのかも知れない、と思ったのだが食べてみると残念な味だった。麺自体は上手いのだがスープがちょっと…。麺が旨いだけになおさら残念に感じる。それで800円もする。その店で普通のスープのラーメンを食べたほうがよっぽど良かったぞ。
 そしていよいよ競馬場に入場。エキサイティングゾーンで馬と一緒に走りながらレースを観戦。これがばんえい競馬観戦の醍醐味だ。しかし、朝の2レースから打っているのだが、馬券は全く当たらない。

 前述の通りこの日の中山競馬場では私の出資馬インプロヴァイズが準メインの韓国馬事会杯に出走する。帯広競馬場にも中央競馬の馬券売り場ができていて、モニター観戦ができるのでそこで観戦した。ばんえいの競馬場で観る中央競馬もなかなか乙なものである。 実は前週のWIN5でキャリーオーバーが発生していたので、IPATでWIN5を2点だけ買っておいた。インプロヴァイズの出走する韓国馬事会杯も対象レースである。
 そこでWIN5対象レースだけは、中央競馬の売り場で中央のレースをモニターで観戦する。WIN5対象の最初の2つのレースは買っている馬が勝った。
 3つ目の対象レースは韓国馬事会杯。もちろんインプロヴァイズを買っていた。2番人気に推されていた。戸崎騎手が手綱をとったインプロヴァイズは道中中団に付けて、3〜4コーナーのカーブを距離ロスを最小限に抑えるべく最内を回って来た。そして、直線で内の開いたところをうまく抜けて、ゴール前で先頭に躍り出る。見事にインプロヴァイズが勝利を飾った!馬の力もそうだが、戸崎騎手の好騎乗も光った。これでめでたくオープン入り。また、WIN5の3つ目も通過。
 さらに4つ目の対象レースである阪神大賞典も買っていたゴールドシップが勝ち、4つ目も通過。その次のスプリングカップで1番人気アジアエクスプレスが勝てばWIN5的中である。五重賞的中は人生初の経験だ。
 スプリングステークスでアジアエクスプレスに騎乗したのは、奇しくも前のレースで我が愛馬インプロヴァイズを勝利に導いた戸崎騎手。ちなみにWIN5対象レースの1つ目のレースも戸崎騎手が勝っていた。ここでも勝って私にWIN5的中をもたらせば、まさに戸崎さまさまである。
 しかし、アジアエクスプレスは最後に良い脚で上がってきたものの、前を行くロサギガンティアを捉えられず、惜しくも2着。最後の5つ目で期待を裏切られた。しかも惜しい2着。でも、インプロヴァイズの時にきちんと勝ってくれたからまあいいか。
 中央競馬はWIN5こそ惜しいところで取り逃したもののインプロヴァイズの単複と阪神大賞典の三連単が当たっていてプラスだったのだが、現地で目の前で行われているばんえい競馬は全く当たらない。訳あって馬券を買えなかったレースに限って予想が当たってるし…。帯広に来てるのに中央競馬に心が熱くなっている。

 とはいうもののばんえい記念は格別だ。場内にも独特の雰囲気がある。ここは断然1番人気のチャンピオンカップ勝ち馬キタノタイショウで堅いだろうと思ってキタノタイショウの頭の三連単で勝負。
 そしていよいよレースのスタートである。通常のレースと異なり1000kgもの重いソリを引きながらのレースである。普段なら第二障害途中まではあまり止まらないものだが、出走馬達は小刻みに止まり息を入れる。 第二障害も一気に駆け上がれる馬などいない。通常のレースよりもはるかに重い1トンの荷物を曳いている馬たちは坂の途中で休息を入れて、ゆっくりと、しかし懸命に障害を越えていく。
 やっとの思いで障害を越えても、そこからすんなりとはいかない。ゴールまでの間の平坦な道でも止まってしまう。キタノタイショウは第二障害を越えた時点で前を行く馬たちから大分離れていたが、この馬の力を考えるとそれでも何とかなりそうだ。そう思ったのだが、結局何ともならなかった。
 勝ったのは8歳馬インフィニティー。無限大という意味。いい名前の馬だ。相手では馬券を買っていたが、まさか勝ってしまうとは。2着争いは混戦だった。結局人気薄のフクドリが2着となって大波乱。取りようがない。キタノタイショウは馬券圏内にすら入らなかった。そして、ゴール後にその場に座り込んでしまった。相当疲れたんだろう。
 1着から3着までが決まって馬券の当たり外れは決まったが、それでもレースは続く。3着までの馬が決まっているのに、ほとんどの観客がレースを最後まで見続けている。アアモンドヤワラという馬が他馬から離されてゴールした瞬間は軽い拍手が沸き起こったが、第二障害をよく見ると、その時点でまだ馬が1頭いた。シベチャタイガーだ。全着順はすでに決まっているのに、観客のほとんどはその場を離れることなくレースを見続けていて、「頑張れ!」などと声援も上がっている。着順が変わる可能性はゼロにもかかわらず、ほとんどの観客はシベチャタイガーが完走するように見守っている。
 そしてシベチャタイガーがやっとの思いでゴールすると、観客から大きな拍手が沸き起こる。泣いている人もいる。勝ち馬が決まった瞬間よりも最後の馬がゴールした瞬間が盛り上がるのはばんえい記念ならではである。着順如何にかかわらず、1トンものソリを曳いて完走することに意義がある。ビリの馬が人々に大きな感動を与えられるのである。
 ちなみにシベチャタイガーの馬主さんは、この日阪神競馬場で行われた阪神大賞典を勝ったゴールドシップの馬主でもある。ゴールドシップはその強さで観客に感動を与えたが、シベチャタイガーは結果は関係なく1トンのソリを曳いて200mのばんえいコースを完走したということで、ゴールドシップと同等かそれ以上の感動を観客に与えたのだ。

 目の前のレースの馬券はカスリもせず、馬券的には中央競馬に熱くなってしまったが、やはりばんえい記念を現地で観た、その感動を味わったということだけで帯広までやって来た価値があるものだ。


[あとがき]
 またしても旅打ちネタです。今年はここのところ1年置きぐらいに書いているばんえいネタですが、ばんえいだけではなく一口馬主等の中央競馬のネタも盛り込んでみました。このエッセイを書いた時点の直近1年ぐらいで最も印象に残っている日を日記風に書いてみたのですが、ごちゃごちゃしててわかりにくかったかなと、今読み返すとそう思います。

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