星新一の内的宇宙インナースペース


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 短編作品を、しかも平井和正という長編が中心の作家のショートショートのことを何故このコーナーで書くのか?それは、星新一が亡くなってしまった(つまり文字通り「星」になってしまった)からである。だから追悼の意をこめてあえて平井和正の60年代(70年代初頭だったかも)の一短編をとりあげることにする。本来なら、星新一のことを書けばいいのだろうが、私は星新一というかなりの数の作品を世に出した作家の作品の中の1ないし2割程度しか読んでいない。だから、書こうとしてもうまく言葉にならないのである。

 でだ。この作品の内容はというとだ。こんな仮定となっている。いや、結論かも知れないな。「父から引き継いだ星製薬が経営不振に苦しめられ星新一はかなり苦難を浴びせられていた。そこで星製薬の社長室で現実逃避の妄想を始める。それがだんだん現実味を帯びてきた。そして宇宙塵を作りSFマガジンを作り小松左京という親友を作りあげ、(略)日本のSF界を作り上げていった。」つまるところ、日本のSF界は星新一の内的宇宙インナースペースであるのだという。その証拠に星新一は「だれからもほめられこそすれ、けなされたりしない」のだそうだ。

 それで落ちはその妄想に狂いが生じ始めるというものである。

 まあ、これはもちろんフィクションだがもし星新一がいなければ日本にはSFはなかっただろうし、あったにしてもマイナーすぎる分野になっていたであろう。少なくとも今の姿はないはずだ。それだけ星新一は偉大な作家である。

 もし、その仮定が現実だったとしよう。星新一は亡くなってしまった。しかし、肉体は滅びても魂は残っているだろう。だからインナースペースというものも残るはずである。たとえその世界はもはや自分の直接的な力が及ばなくなったとしてもだ。自分の死後のことまで妄想することはできない、ということは決してない。そして、星新一によって作り出された日本のSF界は今後も続いていくのだ。そう信じたい。

1998/1/7記


星新一の内的宇宙
出典「悪徳学園 」平井和正著・角川文庫

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