虚航船団


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 この作品はスケールがでかい。文庫本にして570ページでこれだけの内容が書かれているというところが凄いと思う。これだけの内容が一冊の本におさまっているのだから。

 「虚航船団」は「文房具」、「鼬族十種」、「神話」といった3章から構成される。

 まず第1章の文房具。これは宇宙船が航海しているというお話である。こう書くとありきたりのSFの様だが、実はそうではない。文具船という宇宙船の乗組員はすべて文房具やそれに類するものなのだ。コンパスや鉛筆、消しゴム、鋏などの文房具なのだ。文房具の姿をした人間なのか、人間のような思考回路を持ち行動をする文房具なのかは不明だが。そして彼ら文房具はみな、どこか狂っている。しかもその狂い方の症状は個々によって全くことなる。いろんな狂い方をした人間が同じ宇宙船に乗って冒険をしている、というような設定だと、P.K.ディックの小説のようだ。しかし、彼らは文房具なのである。

 そして第2章・「鼬族十種」。これは宇宙の中のとある惑星での歴史である。その惑星は流刑植民地である。そして処刑されることになった鼬たちがその昔その惑星に流された、というところからスタートしている。そこで、彼らは独自の文明を持ち始める。宇宙船があるぐらいのところで流刑にされたのだから、彼らの先祖はかなりの文明をもっていた筈なのだが、なんにもない惑星に何も持たずにおろされたのだから、結局原始時代のようになってしまう。そこで、彼ら鼬たちはまた、われわれ人類が長年築きあげてきた歴史とにたような歴史を繰り返していく。つまりは世界史のパロディーなんだな。

 そして「神話」と銘打った第3章。実は文具船に課せられた使命というのが「鼬惑星襲撃」なわけであり、文具船が鼬惑星に上陸する。そこで「文具船」という虚構と「鼬族の惑星」という虚構の2つの虚構が重なり合い、新たな虚構を生んでいく。

 といった構成になっているのだが、実は各章ごとに独立した作品になっていてもおかしくない。第3章はそれまでを読まずに読むのは無理があるかも知れないが。とにかくそれだけ1章1章のスケールがでかいのだ。それでも1冊の本として出ているのでお買い得な作品なのかもしれない。


虚航船団
筒井康隆著。新潮文庫。

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