筒井康隆

 私が最もよくその作品を読む作家、そして最もよく影響を受けた作家といえば筒井康隆だろう。しかも彼の小説だけではなく、エッセイや日記なども愛読している。

 彼はSFについて「SFは法螺話だと思っている。同じホラ吹くなら、でかいホラほどいいわけで、シリアスなSFというのは真面目な顔してヨタとばすあの面白さに相当するだろう。」と書いている。

 彼の作品は初期のころとその後(以下最近と表現する)では違った趣をみせている。初期のころはいわゆるドタバタSFが多く、そういうジャンル(どういうジャンルだ)はそれまで日本には無く、それによって多くの人がSFというものに興味を持ち始めたので、星新一、小松左京と並んで日本の初期のSF界を作り出したといっても過言ではないだろう。最近ではその流れを汲む作品もあるがジャンルにとらわれず(というより「筒井作品」というあらたなジャンルを作り出して)斬新かつ前衛的な作品が多い。

 と書いたがどのあたりまでを初期とすればいいのだろうか、明瞭ではない。たぶん「虚人たち」(S58)あたりから最近と呼べばいいのかな?初期の作品は「軽薄」という人もいるが、彼は彼独特の飛躍したアイディアでかなり面白い作品を書いている。特に学生争乱やベトナム戦争などの社会的事件をパロって未来の世界を描いたものや、人間の心理や行動などの本質的な部分をついた作品を読んでいると、筒井康隆という作家は「真面目に物事を考える」部分と「不真面目に(?)作品を書く」部分がみごとにハーモニーとなって優れた著作を生み出しているように思える。

 そして最近は「虚構」とか「虚構内存在」というものをテーマにしたと思われる作品をよく書いている。「今のところまだ何でもない彼は何もしていない。何もしていないことをしているという言いまわしを除いて何もしていない。」という書き出しではじまり自分が虚構内存在であるということを意識した主人公が物語が始まったとたんに沸いてでたように登場する「虚人たち」を皮切りに「夢の木坂分岐点」など虚構が舞台であることが明確な作品が書かれている(しかしまあ、考えてみれば「虚構が舞台」っていうのは小説にしても映画にしてもそれが名文化されているかどうかは別にして世の中に存在するすべての作品がそうなんだけど)。

 その虚構がテーマの作品の中でも圧巻といえるのが「虚航船団」であろう。第一部は文具船という文房具を擬人化した乗組員たちが乗った宇宙船のお話。これはまあ初期のころのSFと通ずるものがあるだろう。同時期に書いていたエッセイ「玄笑地帯」でも「昔の作品を読んでて気づいたが、20年前にすでに似たようなことをやっていた」という内容のことを述べているし。で第2部は鼬の惑星における歴史のあらまし。これは世界史のパロディーである。歴史上のできごとをパロディーにした小説や漫画は多いが、世界史そのものをパロってしまうところに筒井康隆の偉大さを感じる。そして第3部でそれら2つのものが合流し、昇華される。この作品については別なところに書いたのでここではこれ以上書かないが。

 1993年年末彼は「表現の自由が守られていない」という出版界の風潮に抗議するために断筆宣言をした。非常に残念だったが、そういう「ただ儲けるために出版社の注文通りに書く」のではなく「自分の表現したいように書く」ということへの毅然とした態度は尊敬できる。断筆宣言は97年に撤回され、執筆を再開したのでこれからも頑張って欲しい。

 とまあ、書いてみたものの「一番思い入れがある作家にかんする文章がこんなもんでいいんか?」と思ってしまうほどの駄文になってしまい、この文章だけじゃ筒井康隆の魅力の半分も伝わらないと思われるが、言いたいことはこうである。とにかく読め!読んで損はない!


このコーナーで紹介している彼の作品
虚航船団
歌と饒舌の戦記

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