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2005年度優駿エッセイ賞落選作品 自宅WINS化計画

05/9/25

 この作品は雑誌『優駿』で毎年行っている「優駿エッセイ賞」に2005年度に応募したものです。2004年に応募した時は初の応募ながら1次選考を通過しましたが、今回は見事に1次選考で落選しました。入選作の著作権はJRAに帰属することになっていますが、本作品は入選はしていないので著作権は私にあると判断し、この場を借りて公開します。まあ、今回は構想2〜3日で仕上げ、応募した時点で「昨年ほどのできではないな」と思っていましたが(^^;。今年は優駿10月号の時点で1次選考落ちを確認できたので昨年より1ヶ月早く公開できます(苦笑)。

自宅WINS化計画

 今週もまた競馬は行なわれる。我々競馬ファンはそれぞれの思いを胸に馬券を買い、そしてレースを観戦する。そしてその結果に対して一喜一憂する。それは毎週毎週エンドレスに繰り返される。
 この素晴らしい行為をするには競馬場、もしくは場外馬券売場(WINS)まで出かけていかなければならなかった。しかし、現在では勝ち馬に投票すると言う行為ならA−PAT等の電話投票もできる。ただし、ただ投票ができれば(そして的中した場合払戻金を手にできれば)それでいいかというとそれだけではちょっと物足りない。必要最低限のことはPATがあればできるのだが、それだと人間が生きていくのに必要な栄養は含んでいるが味気のない食べ物のようである。やはり自分が賭けたレースは、ちゃんと観戦して道中の駆け引きなり直線の攻防における興奮なりを体験したりするのが正しい競馬の楽しみ方である。
 とはいうものの馬券が買えなければ話にならない。かつて「クリープのないコーヒーはコーヒーではない」というCMのコピーがあったが、馬券を買わないでレースだけ見るのは私にとって「コーヒーの無いクリープ」のようなものだ(もちろん当たりそうに無いときや儲からなさそうな場合、戦略的に「ケン」をすることはある)。
 というわけでまずは勝馬投票だ。自宅で馬券を買う(正確には券は出てこないので投票するといった表現が適切だが)ために最低限必要なものと言えばPAT(電話回戦やインターネットを使った投票システム)である。これに入るにはJRAに申し込みをして、抽選で当たる必要がある。以前はなかなか当たらなかったのだが、99年頃からはセンター側のシステムや回線が充実してきたせいか当たりやすくなった。抽選で当たったら専用の口座を作り、住民票の写しを提出してPATを使えるようになる。この口座は金曜の夜から開催翌日(通常月曜日)までは口座がロックされてカネの出し入れができないのであらかじめ残高を用意しておかなければならない。また、月曜日の生活費を馬券で稼ごうと思って計画通り稼いだとしても火曜日までは引落できないので注意が必要だ。99年の金杯の後ぐらいにに我が家にPAT当選通知が届いた時には感動したものだが、今年からは「即PAT」という口座を開設したその日のうちに馬券購入ができて、しかも土日も出し入れ自由のシステムができたらしい。私はこの原稿を書いている時点では使ったことが無いが、かなり便利なシステムだと思う。いずれ私もお世話になることであろう。
 PATといって忘れてはならないことは、最近ではインターネットを使った投票ができるようになったということ。以前はパソコンで馬券を買おうとすると、電話回線を使った特殊なシステムで専用ソフトが必要だったが、今ではWebブラウザさえあれば、投票ができる。専用のソフトや特殊な機械が必要はなくなったということだ。インターネットは競馬関係のホームページ等からいろいろな情報を手にいれることができたり、レース結果を即時に確認できたりと便利な代物なので、競馬ファンならぜひとも使える状態にしておきたいものである。余談ではあるが、私は10年前のインターネットの黎明期と言われていたころから、インターネット上で競馬のページを公開している。当時はインターネットユーザというと一部の学生か研究者もしくは若手の技術系サラリーマンがほとんどだったが、長い間やっていると若い人ばかりではなく年金生活のご年配の方まで見てくれているようなであり感無量である。
 これで自宅のパソコンから競馬の投票はできるようになった。私がPATに当選した時は、社会人1年目で始めてボーナスをもらった直後でデスクトップパソコンを新調したばかりだったが、せっかくだからとノートパソコンまで購入した。その当時は携帯電話やPHSからPATで投票することは技術的には可能であるもののJRAは動作保証はしないということだった。しかし、実際には投票はできたので、ノートPC+PHSで全国どこに居てもPHSの電波が届くところであれば馬券が買える環境となった。初めてのボーナスをこんなことに使うなんて我ながらかなりの気合いの入りっぷりである(笑)。しかし今ではiモードやEZウェブを使えば携帯電話から投票ができるので、そんな凝ったことをしなくても馬券は買える。奮発してノートPCを買って、PATシステムへの接続設定をいろいろと苦労して試していたということが、懐かしくもあり馬鹿馬鹿しくもある。
 馬券、馬券、投票、馬券とここまでは馬券を買うという経済的決済についてばかり語ってきたが、先に書いた通りこれだけでは物足りない。やはり、馬券を買ったらレースも見ないと。しかもリアルタイムで観戦できると言うことが望ましい。競馬場やWINSではもちろん馬券を売っているだけではなく、レースの実況も行なわれている。その実況が一般家庭でも全レース視聴できるのが、JRAが提供しているグリーンチャンネルだ。グリーンチャンネルを視聴するにはケーブルテレビとCS(スカイパーフェクTV)があるが、スカパーの方がお薦めである。なぜなら、グリーンチャンネルは開催日は東西の2チャンネル構成になるのだが、ケーブルテレビは1チャンネルしか視聴できないからである。東日本の人ならEAST、西日本ならWESTといった感じで片方しか見ることができない。私は関東在住だが、馬券的には中京と小倉を得意としている。だから、中京や小倉の開催の時は燃えるのだが、これが自宅からケーブルテレビ経由のグリーンチャンネルではリアルタイムでレース観戦できないのが不便だった。ちなみに、05年から各地の競馬場やWINSで東西のレース全ての馬券を買うことができるようになったため、他の地区(EASTなら関西、WESTなら関東)のレースが数分のタイムラグでVTR中継される様にはなった。しかし、全レースをリアルタイムで観戦できた方が便利である。ケーブルテレビでも2つのチャンネルを放送すればいいのにと思うのだがいかがなものだろうか?

 というわけで、スカパーを受信できた方が何かと便利だ。私はパソコンとインターネットを使いこなしている人間なのであまり関係はないのだが、パソコンが苦手な人でも特殊なチューナーを買えば、スカパーの衛星経由でパソコン操作よりもよっぽど簡単な操作で馬券を買えたりオッズ取得などのデータ放送を使えたりするようになったらしい。
 そこで自宅をWINS化するためには、まず住居選びが重要だ。住居を選ぶ時の基準は人それぞれの好みによっていろいろとあると思うが、最重要なのは「晴れた日の午後2時に太陽が見えること」。要は南南西の方角に高い建物その他電波受信の妨げとなる物が存在しないということだ。スカパーの衛星は日本の南南西の方角を地球の自転と同じ周期で回っている。その方角に電波を妨げる物が無く、なおかつパラボラアンテナを設置可能であることが重要。「午後2時に太陽が見える」と書いたのは通信衛星は赤道上空にあるので、季節にもよるが高度が大体太陽の高さぐらいになるからである。
 もう一つ、住居選びのこつは「コンビニが近い」ということか。自宅をなるべく馬券売場に近い状態に持っていくためにはこれもポイントが高いだろう。競馬新聞も売っているし、弁当などの食料品も買える。どこの馬券売場にも売店ぐらいはあるし。コンビニに行くのが面倒な場合、メシは出前を取り、競馬新聞はFAXサービスを利用するという方法もあるのだが、これだとカネがかかりすぎる。資金に余裕があればやってみるのもいいのだが・・・。あとは競馬場にあるような「水・湯・お茶」が出てくるような給水機を自宅に導入すれば完璧。さすがに私はそこまでしていないし、するつもりもないが(笑)。
 我が家はこうしてWINSのような家になってしまった。これはこれで便利なのだが、やはり自宅ではどうしても手に入らないものがある。それは「現場の雰囲気」。やはり目の前で馬が走っていた方がよい。そして他の客の「差せー」とかそういう叫び声が聞こえて来て、時にはヤジも聞こえて来た方がよい。隣の2人組のオヤジが競馬についてあれこれと語っていたり、時にはレース終了直後に見知らぬ人と話していることがある。こういう見知らぬ間柄でも気軽に話せるのも競馬の魅力の一つだろう。「競馬ファン」という連帯感と、目の前で同じレースという空間を共有してきた仲間意識。顔見知りで友達同士のように話しているような間柄でも、競馬場以外で合うことがないどころか、お互い名前も住んでいる場所も何も知らないし、知らないということを気にしてすらいない。普通に生活していたら味わうことができない味のある人間関係だ。そしてレース後の馬券師達が集う競馬場近辺の飲み屋の雰囲気(この様子は昨年のこの賞で1次選考を通過したものの落選となった拙作『府中の西門前』のメインのテーマとしても取り上げた)。
 このような競馬場の、もしくは馬券売場の文化というべき雰囲気はいくら勉強したりおカネをかけたりしても現場までいかないと手に入らない。自宅がWINSの機能に近くなって、それはそれで以前より遙かに便利にはなった。しかし、そこでは決して手に入らない「何か」を求めて、今週もまた馬券売場に出向いてしまうのであった。

[あとがき]
昨年は「ネタ勝負」で1次選考は通過できたが、同じネタを2年連続続けてもしょうがないと思い、今年はテーマを思いっきり変えることとした。今年はとにかく構想を練っている時間的余裕が無く、構想から執筆まですべて含めて2〜3日という急仕上げだ。馬で言うとまだまだ太め感が残っているといった感じか。今読み返しても昨年ほどの出来にすら達していない。これだと運が良くない限り入選しないだろうな。来年はもうちょっと素晴らしい文章を書いて入選したいものである。何かいいネタは無いかな?


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