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2010年度優駿エッセイ賞落選作品 ウィナーズサークルなう

10/9/25

 この作品は雑誌『優駿』で毎年行っている「優駿エッセイ賞」に2010年度に応募したものです。2004年に応募した時は初の応募ながら1次選考を通過しましたが、今回は見事に(6年連続)1次選考で落選しました。入選作の著作権はJRAに帰属することになっていますが、本作品は入選はしていないので著作権は私にあると判断し、この場を借りて公開します。昨年に続き今年も優駿10月号の時点で1次選考落ちを確認できたので6年前より1ヶ月早く公開できます(苦笑)。

ウィナーズサークルなう

 2009年の夏の日、関越ステークスを観に新潟競馬場へ遠征することとなった。私が一口馬主として出資しているシルククルセイダーが新潟メインレースの関越ステークスに出走するのである。
 新潟競馬場では同馬に出資している縁でインターネットで知り合ったWさんと合流した。この日初めて会うのだが、彼はクルセイダーの口取り権利が当たったらしく、スーツで競馬場に来ているので見つけやすかった。一口馬主と言えば競走馬に出資だけしていてファンド的な部分以外の馬主の特権は与えられていないのだが、数年前から最大10人の出資者が持ち馬が勝った時の口取り式に参加できることとなった。彼はその口取り権利に申し込んで当選していたのである。
 準メインで松岡正海(クルセイダーのこの日の鞍上)の騎乗馬が勝つのを見届けて「次も頼むぞ〜」という感じで迎えたメインの関越S。もちろん私達の本命はシルククルセイダー。前日の雨の影響で馬場状態は重。この日は雨は降っていないので朝よりは回復している筈なのだが発表は重のまま。前走を見ている限り重馬場は苦手っぽいので朝から「乾いてくれ」と願っていたのだが結局重馬場だった。前走は田んぼの中を走っているような不良馬場だったので「限りなくやや重に近い重」ならやれるかもしれないができれば良馬場になって欲しかった。
 そしていよいよレースがスタート。クルセイダーは好スタートを決めた。デビュー直後を除いて後方から早めに捲くって行くレースをしていたのであるが、今回は積極策で番手に付けた。ペースはスローに流れているようだ。重馬場で直線の短い新潟ダートではこれが正解かもしれない。そう思っていると、直線では逃げていたメイショウクオリアと2番手シルククルセイダーが抜け出した。この2頭の激しい一騎打ちだったが、直線半ば過ぎでクルセイダーの方がわずかに先頭に躍り出る。私の「差せー!」の叫びが「そのままー!」に変わった約1秒後に2頭がゴール板前を通過した。シルククルセイダー、1年5ヶ月ぶりの勝利。そして初のオープン勝ちである。クルセイダー自身だけではなく私にとっても出資馬がオープンを勝つのは初めてだ。松岡騎手がガッツポーズをしている時、スタンドでは我々もお祭り騒ぎだった。
 そしてウィナーズサークルへと向かう。Wさんは口取りに出席するため集合場所へ行ったのだが、私は口取りの参加権がなかったので外から表彰式を見ることになる。結局2人しか申し込みがなかったそうだ。抽選無しで参加できたのだったら申し込めばよかった…。口取り式は、私もそこに居たいと思いつつも後ろから拝むこととなった。写真撮影が終わり、Wさんともう一人の口取り参加者が戻ってくる。「私もクルセイダーの出資者です」と挨拶をしておく。すると「次は重賞で」との返事が返ってきた。ぜひともそうしたいものだ。

 そのシルククルセイダーの次走はエルムステークスだった。通常札幌で行われるレースなのだが、この年は函館競馬場改装に伴う変則開催のため新潟競馬場で行われた。関越Sの時に悔しい思いをしたので、この日は口取り権利を申し込み、当選していた。そしてスーツ姿で新潟競馬場へと遠征した。
 この日もWさんと合流。今度は二人ともクルセイダーの口取り参加権が当たっており、勝てば口取り式に参加できる。パドックを見に行ったらクルセイダーはいつものように落ち着いている模様だった。
 パドックを見終わった後、口取りの集合場所へと向かう。関越Sの時は2人しか応募者がいなかったのだが、今回は連休中でしかも重賞だったせいかそれなりの人数がいた。チラッと見えた名簿を見ると最大限度である10人ぐらいいるようである。
 受付も済ませ、あとは勝つだけ。しかし、それが最大の難関だった。いつもは道中どんな位置にいても4角では前の方にいるシルククルセイダーが、4角に差しかかっても後ろから3番目ぐらいの位置にいる。そこから直線で上がってきたのだが、結局馬群の真ん中あたりまで上がってきたところでゴール板を通過した。結果は残念ながら9着。せっかく口取りが当たったのに。ちなみに私は口取り権利が当たったのはこれが初めてだった。

 私の出資馬にはシルクプレストという馬もいるのだが、11 月22 日の福島9R(500万円以下)に出走して、見事に2年半ぶりの勝利を飾った。これでようやく2勝目だ。単勝76倍10番人気という低評価ながら、4角4番手当たりに付け、直線で前を行く人気どころの馬を内側から交わし、追いすがる馬も振り切って2馬身差の勝利。
 怪我でデビューが遅れたもののデビュー戦を難なく勝ち鞍上の柴田善臣騎手が絶賛していたので期待していたのだが、500万条件に昇級後は泣かず飛ばずな上に脚下が弱く、休養しつつたまに出てきてはあえなく敗れる。さらに、気性が悪いために去勢をされ、手術明けで再入厩したら馬房の壁か柱にトモをぶつけてまたもや休養という状況だった。
 しかも、故障が治りレースで使える様になったら所属する尾形厩舎に馬房の空きがないということで星野厩舎に転厩となった。尾形先生に馬房を用意してまで使うほどではないと判断されたわけだ。正直言って私はこの時点であまり期待していなかった。
 しかし、セン馬となり転厩して2戦目で2年半ぶりの復活を遂げた。デビュー戦で見せたパフォーマンスから期待が大きかった馬なので、復活してくれて何よりだ。馬代金の元は取れていないが、苦労してきた馬だけに復活してくれて本当に嬉しい。故障がちな所は心配だが素質のある馬だと思うので今後も期待したい。この日は福島に行こうかどうか迷ったのだが、結局行かずに地元の府中でモニター観戦だった。福島に行けば良かったな。
 その後何度かシルクプレストの口取り式に申し込んでいたのだが、口取りが当たって現地まで行くとことごとく敗れてばかり。東京から中京競馬場まで行ったこともあったのに。
 なかなか口取り式参加のチャンスに恵まれずにいたが、翌年の桜花賞の当日にそのチャンスが訪れた。中山競馬場の最終レースに出走するシルクプレストの口取り権利が当選し、阪神では桜花賞で盛り上がっている中、スーツ姿で中山競馬場へと赴いた。
 桜花賞の馬券は見事に的中。心にも懐にも余裕ができた状態で我が愛馬の出走する最終レースの1000万条件戦をゴール前で観戦。プレストはスタートから果敢に上がっていき、ハナに立つと道中はハナをキープ。4コーナーも先頭で通過したが、後続の馬が並びかけてきた。「そのまま、そのまま〜!!」私の前で観ていた見知らぬ兄ちゃんが呆れて振り返ったが、気にせず叫び続けた。魂の叫びが馬にも届いたのか、プレストは突き放して先頭でゴールイン。見事に3勝目を飾った。2〜4着は1〜3番人気の馬が入線する「実力通り」の展開の中、8番人気のシルクプレストが見事に逃げ切り勝ちを修めてくれた。
 ところで、ツイッターというインターネット上のつぶやき形式のコミュニケーションサービスをご存知だろうか?短文をつぶやくとリアルタイムでフォロワー(購読者)に伝わるといったサービスである。今どうしてるかがリアルタイムで伝わるのがウリのサービスだ。ツイッターでは語尾に「なう」を付ける決まり文句がある。「今◯◯にいる」とか「今◯◯してる」といった意味だ。私もこのサービスを使っているのだが、勝利の瞬間から何人かの方からおめでとうというメッセージをいただいた。その場に一緒にいなくてもたまたまツイッターのタイムラインを見ていた人に祝ってもらい、それがリアルタイムに伝わるなんていい時代になったものだ。
 愛馬の勝利を見届けた後、口取りの集合場所へ。そこに集まった会員は私を含めて4人だった。関係者入り口に向かう途中で他の会員さんと話していたのだが、前回福島で勝った時は口取り申込者が一人もいなかったそうである。その時は私も勝つとは思っていなかったので申し込まなかったが、申し込んでいれば本物の馬主の様に一人で口取り写真に収まることができたのかな。
 そして通路を抜けてウィナーズサークルにたどり着いた。プレストを間近で観たが想像以上に逞しい体つきをしている。手綱をとった江田照男騎手に「ありがとうございました」とお礼を述べる。そして、携帯電話からツイッターで、
「ウィナーズサークルなう」
と全世界に向けてつぶやいた。
 今まさにウィナーズサークルにいるぞ、という意味である。ウィナの中では携帯でキーを打つことができないだろうから、関係者入り口に入る前に入力して確定ボタンにカーソルを合わせておき、ウィナーズサークルの中で確定ボタンを押しただけなんだけどね。
 というわけで他の出資者や関係者の方と、そしてシルクプレストと一緒にウィナーズサークルで口取り写真撮影。愛馬の勝利に立ち会えるなんて一口馬主冥利に尽きる。これが本物の馬主ならこの500倍嬉しいのであるが、まあそんな見込みはないだろう。
 勝利の瞬間からツイッターを初め多くの方からお祝いのメッセージをいただいた。特に「ウィナーズサークルなう」をつぶやいた瞬間からツイッター上に多くの祝福の言葉が流れた。ありがたいものである。直接の知り合いもそうでない人も、多くの人が応援してくれ、また祝福の言葉をかけてくれて本当に嬉しい。喜びはみんなで分かち合えるもの。そういうことを実感した愛馬の勝利だった。

[あとがき]
 今年の作品は構想も含め実質1日半で書き上げた。突貫工事も虚しく(笑)一次選考で落選。この1年(正確にいうと原稿を書いた時点から前1年)で、一口馬主関係で色々とあったし、またツイッターを本格的に初めてからは現場で一緒にいる人以外にも馬券や一口馬その他の応援の喜びや悔しさをリアルタイムで共有できるようになった。一年間を振り返ってそんなことがあったのでこのネタにしたのだが、いかんせん作品の質が荒削りすぎるかな。一口馬主を語るのに複数の馬を登場させるのも字数的にも無理があるのかも。どうしても説明が長くなっちゃうし。
 一口馬主をやっている人や本物の馬主さんから見れば「だから何なの?」という様な内容かも知れないが、一口未経験者の方はこれを読んで一口馬主の楽しさを少しでも汲み取っていただければ幸いである。
 ちなみに私のツイッターのアカウントはid:smart_boyです。興味がある方はフォローをよろしくお願いしますm(o)m。


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