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2011年度優駿エッセイ賞落選作品 名古屋からのメッセージ

11/9/26

 この作品は雑誌『優駿』で毎年行っている「優駿エッセイ賞」に2011年度に応募したものです。2004年に応募した時は初の応募ながら1次選考を通過しましたが、今回は見事に(7年連続)1次選考で落選しました。入選作の著作権はJRAに帰属することになっていますが、本作品は入選はしていないので著作権は私にあると判断し、この場を借りて公開します。昨年に続き今年も優駿10月号の時点で1次選考落ちを確認できたので7年前より1ヶ月早く公開できます(苦笑)。

名古屋からのメッセージ

 「ありがとうございます1年経った今も楽しく暮らしてます♪」ある日突然こんなメッセージが届いた。インターネット上のコミュニケーションサービス・ツイッターでの私宛の返信だ。聞いたことの無いIDだったし、プロフィールに登録されている名前等も記憶に無い。ツイッターでメッセージを送ったことも無い。その日は四月一日だった。ひょっとしてエイプリールフールの冗談なのだろうか?それにしては意味不明すぎる。そのメッセージの主は最近ツイッターを始めたらしい。それが何であるのか調べているうちに,1年半近く前の私の書き込みに対する返信だということが分かった。

 一昨年の暮れ、名古屋に出張に行き仕事を終え、翌日は天皇誕生日で休日だった。翌日は名古屋競馬場で交流重賞の名古屋グランプリがある。出張の予定は前日までだったのだが、せっかく名古屋に来たのだし名古屋で一泊して競馬場でも行ってみるか。名古屋競馬場には行ったことが無いし。というわけで東京には戻らずに名古屋で夜を明かすこととした。
 名古屋からあおなみ線に乗って名古屋競馬場前駅で降りる。宿泊場所は駅前にあるマンガ喫茶。名古屋競馬場前駅の近くにホテルや旅館があるのかどうかは知らないが、駅から至近距離の分かりやすい場所にマンガ喫茶がある。名古屋競馬場への遠征の宿泊場所としては凄い便利だ。ホテルに泊まるよりも安上がりだし、インターネットが使えるので、ウェブで翌日のレースの「予習」もできる。競馬場への遠征には便利だ。

 そして夜が明けた翌日。早めに競馬場に向かったら開門していなかったので、寒さしのぎと朝食を兼ねて開門まで門の向かいにあるファミレスで過ごす。名古屋競馬場に行くのはこれが初めてだ。これで踏破競馬場が一つ増える。日本国内に限れば行ったことの無い競馬場の方が少ない。この時点で行ったことのある日本国内の競馬場は中央全10場に南関東全4場、帯広、笠松、高知といったところ。廃止になったところも入れると岩見沢と高崎にも行ったことがある。海外では沙田に行ったことがあるが他は無い。東北人らしく岩手県の競馬場にも行ってみたいと思っているのだが、なかなか行く機会が無かった。盛岡にはその後行ったけど。
 開門時刻直後あたりに名古屋競馬場に到着。交流重賞が行われるので混むかもしれないし、せっかく早くから競馬場に来たのだからと、特観席のチケット売り場の行列に並び、特観席で観戦することとした。この日はもの凄く寒かったし、メインの前あたりから小雨ではあるものの雨も降ってきたので、ガラス張りの特観席を確保できて良かった。

 通い慣れた地元の競馬場ではなく、住んでるところから遠く離れた普段行かない競馬場で公営競技を楽しむ。それを「旅打ち」という。旅打ちには魅力が色々あるが、昭和的なノスタルジックな雰囲気に浸れるところも大きな魅力の一つだ。日本の全公営競技場を踏破した須田鷹雄氏も旅打ちについて書いた著書「いい日、旅打ち。」の中でその様なことを語っている。地元民はどう思っているかは別として、昭和の香りがするところの方が旅打ち人の心に響くものがある。ここ名古屋競馬場の場内もそんな昭和の雰囲気を醸し出していた。建物等の雰囲気だけではなく、伊藤咲子の往年の名曲「ひまわり娘」が流れていた。しかも生で。この日は伊藤咲子のがイベントのゲストで来ていて、往年の持ち歌を披露していたのだ。伊藤咲子のいかにも昭和歌謡という曲がスタンドや食堂等の雰囲気とマッチして、郷愁的な気分に浸らせてくれた。
 まずはせっかく名古屋に来たのだからと、串カツ(味噌)とドテ串で腹ごしらえ。こういうその土地独特のジャンクフードを味わうことができるのも地方競馬ならではである。名古屋競馬場は初めてだったが、笠松競馬場では食べたことがある。東海地区ローカルの食べ物だ。

 その土地というか競馬場の場内での食べ物を堪能することも旅打ちの魅力の一つではあるが、もちろん私はそこに競馬をしに来ている。というわけでもちろん馬券も買う。最初のうちは脚を見るという意味でチョロッと買っていただけだが、どうも前に行く馬が有利らしいということが分かった。
 中央競馬や南関東では見かけない800mのレースというのがあった。こういうのも地方競馬らしくていいな。と思っていたらあっという間に終わってしまった。こんな短い距離のレースの観戦には不慣れなこともあり、気が付いたらレース終わっていた。どうやら馬単が当たった様である。あっという間のレース終了だったので、それに気づいたのはゴール後1秒経ってからだった。ちなみに配当を確認したら馬単よりも枠単の方が配当が良かった。枠単という馬券があること自体地方競馬らしい。

 その馬単を当てたレースが名古屋競馬場での初的中となったわけであるが、そのレースは個人協賛競走で「◯◯、××結婚記念」というレース名が付けられていた。地方競馬の中にはファンサービスの一環として、個人協賛競走を受け付けているところがある。この名古屋競馬場もそうだ。個人の協賛者から一万円程度の賞金もしくは賞品を提供してもらい、レース名に協賛者が付けた名前を冠することができるというものである。  名古屋競馬場に来て初的中ということもあり、私は携帯電話からツイッターで、

「◯◯さん、××さん、ご結婚おめでとう!(全然知らない人だが、今当てたレースがその二人の結婚記念を冠した協賛レースだった。)」

と書き込みをした。そのお二人は全く面識が無く存在自体知らない人だったが、せっかく名古屋競馬を盛り上げようと結婚記念に協賛レースを開催しているのだから、馬券を的中した一ファンの私ぐらいは祝ってあげた方がいいだろう。といっても単に特観席の中から携帯電話でインターネット上のウェブサービスに書き込んだだけなので、その相手に届くことはまず無いのだが。そう思って何気なくツイッターに書き込んだ。  それが一年三か月後に当の本人に読まれることとなり、冒頭で書いた様にお返事までいただくことになるとは、この時は全く思わなかったんだよな。返信が来た時点では失礼ながらその書き込みをしたこと自体忘れていた。おそらくツイッターを始めたので自分の名前で検索してみたら、私の書き込みが見つかったのだろう。

 昼飯は食堂で台湾ラーメンを食べる。台湾ラーメンとは担々麺をアレンジした様なラーメンだ。台湾と名乗っているが名古屋が発祥の地であり名古屋名物らしい。やはり旅打ちはその土地らしい食べ物だよなということで台湾ラーメンを食べてみることにした。

 メインの名古屋グランプリはコースを2周半する名古屋競馬場最長距離のレースである。先ほどの800mのレースとは対称的だ。私の狙い目は中央馬マコトスパルビエロを頭とした3連単と、元中央馬だが道営に移籍して5連勝中のコパノカチドキを頭の3連単。
 レースの方はマコトスパルビエロが逃げる展開。そして、そのマコトスパルビエロが逃げきって勝利を飾った。2着はワンダースピード 、3着はマイネルアワグラスと、道中2、3番手に付けていた中央の馬がそのまま残る。1〜4着を中央勢4頭が独占。そこから大差で5着がコパノカチドキ。中央勢と地方馬の力差がはっきりと現れたレースだった。
 馬券は一応的中したものの、見事にトリガミ。しかも半分も回収できていない。3連単が8倍というのは安すぎる。コパノカチドキが勝っていたら儲かったのだが、やはり門別で5連勝中とはいえ中央の壁は厚かったか。
 最終レースは下に降りて一般席で観戦。前日は冬至であり最終レースの行われる4時過ぎでも薄暗くなっており、ゴール板がライトアップされていた。その最終レースは頭数も手頃だったため、堅くおさまり、馬券は馬連を1点で当てたものの、この日のトータル収支はちょい負け程度のマイナスだった。

 旅打ちの魅力は昭和的なノスタルジックさが大きいみたいなことを書いたが、昭和時代には無かったファンサービス等も味のあるものならどんどん取り入れていった方がいい。例えば個人協賛競走。この様なファンサービスも重要である。公営競技の全盛期だった高度成長期は日本人にとって郷愁の対象となる「古き良き時代」である。その次代を彷彿させる雰囲気も重要であり残していって欲しいが、かといって今はその時代のように黙ってても売上が上がるわけではない。それを残しつつもファンがその競馬場に愛着を感じられるような新たなファンサービスを取り入れていくのも重要なのではないだろうか。そういう意味では協賛レースというのは今世紀になってからできたいい試みだと思う。協賛した本人達にとって記念になり、たまには今回の様に見ず知らずだし直接会ったわけでもないが地方競馬が好きな同士との交流もあるのだから。


[あとがき]
 今年の作品は構想も含め実質1日半で書き上げた。突貫工事も虚しく(笑)一次選考で落選。って昨年も同じ事を書いたような気がするな(笑)。

 何か旅打ちに関することを書きたいなと思っていて、ここ1〜2年の出来事を思い出して書いたのがこの作品である。テーマの選び方というのもあるだろうが、もうショコット構成をじっくり考えて書いたほうがいいのだろうな。


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