牛若丸ジャンプステークスが行われる日、一口出資馬のマグナレガーロが京都競馬場のメインレースである舞鶴ステークスに出走することが決まった。そこで、愛馬の勇姿を見るために京都競馬場に遠征することとした。愛馬が出走するということもあるが、私は障害レースが好きなので、障害のオープンである牛若丸ジャンプステークスを観るのも楽しみだ。その日の京都競馬場は、重賞はないものの、出資馬がメインレースに出走し、障害のオープンレースもあるので面白そうだ。京都遠征には絶好の機会である。去年の秋にも別の出資馬が京都でデビューを迎える日に遠征を計画して手配していたのだが、台風の影響で中止となってしまった。その仕切り直しである。愛馬マグナレガーロの口取り権利も当たったので、勝てば口取りに参加できる。
この遠征のメインの目的は京都競馬場に行くことであるが、京都には競馬ファンとして他にもぜひ行ってみたい場所があった。伏見区にある藤森神社である。藤森神社とは馬と勝負事にご利益のある神様を祀っている神社であり、京都競馬場からも割と近い。競馬関係者や競馬ファンでもそこを訪れる人が多い、有名な神社である。以前から一度は行ってみたいと思っていたが、訪れたことはなかった。そこで、今回はいい機会だと思い、競馬場に行く前にその神社に参拝に行くこととした。
京都にはJR東海ツアーズの日帰り用の企画切符で行くこととした。その切符は割安で新幹線に乗れるが、利用できる列車が限定されているので朝早い(というより未明のうちに)出発となる。府中に住んでいる私は東京競馬場の最寄り駅である府中本町駅を始発列車で出発した。口取り式に参加するかもしれないので、スーツ姿である。
新幹線で京都駅に着くと、ホームを出ずに待合室でノートパソコンを広げた。この日の午前中に行われるレースの予想をしてIPATで投票していたのである。馬券の仕込みを済ませると、在来線の奈良線に乗り込み、JR藤森駅へと向かう。ちなみにJR藤森駅は京都市内の駅なので、京都駅で降りるのと運賃が変わらない。
JR藤森駅を降りて藤森神社まで歩いた。まずは宝物殿を見学。有名な福島の三春駒はもちろん、日本国内のみならず世界各地の馬の置物などが飾られているのが印象的だった。また、鶴丸という刀剣のレプリカも置かれていた。この名前を聞いた時、ツルマルという冠名を思い出した。
その後境内を散策したのだが、あちこちに馬関係のものが多いのが嬉しい。建物に飾られた額縁には古風な絵に数字が書いたゼッケンを付けて騎手が跨っている競馬の絵。狛犬の近くには馬の像。
この神社は菖蒲の節句の発祥地であるらしく、金太郎の像もあった。キンタローと聞くとばんえい競馬の往年の名馬を思い出す。私はリアルタイムでその馬を見ていたわけではないが、かなり有名な馬なので名前は知っている。サラブレッドでいうとオグリキャップの様なものだろう。ここは馬と勝負事の神社なのだが、この金太郎像がばんえい競馬の往年の名馬にちなんで作られたのかは不明である。
ところで神社で馬といえば絵馬である。せっかくだから絵馬を買って奉納しようと思い、他の神社ではあまり見られないような絵の書いた絵馬を買った。文字通り「絵に描いた馬」であり、競走馬の絵が書いた勝馬祈願の絵馬である。その絵馬は八百円だったので、千円札で絵馬を買った。お釣りの二百円でおみくじを引いた。おみくじの結果は大吉だった。これは幸先が良い。
その絵馬の裏には次のように書いた。
「愛馬マグナレガーロ号が、本日京都メインレース舞鶴Sを勝ちますように。(ついでに馬券も当てたい…。)」
馬と勝負事の神様への祈りとしてはピッタリな願い事である。
参拝も済ませ、藤森神社から歩いて京阪墨染駅へと向かった。 淀に行くには京阪線に乗る必要があるからだ。ちなみに京阪線には藤森駅という駅があるのだが、藤森神社には墨染駅の方が近い。
京阪線で淀駅まで行き京都競馬場に到着。午前中には到着して馬券勝負をするが、なかなか当たらない。抑えで買った複勝が当たる程度である。
この日、メインレース以外で楽しみにしていたのは前述通り牛若丸ジャンプSである。障害のオープンレースだ。その牛若丸ジャンプSでは、本命にしていたトラストが先頭で粘り、馬連の相手に持っていたメイショウオトコギが二着になりそうだったので「当たった」と思った。しかし、最後にエアカーディナルがものすごい脚で差してきてメイショウオトコギを抜き去っていった。エアカーディナルはその後トラストにもクビ差まで迫って二着だった。断然人気のトラストは勝ったものの、思ったほど楽勝にはならなかった。メイショウオトコギは二年連続このレースで三着である。
その他のレースも外しまくって、いつのまにかメインレースの時間となっていた。メインレースの舞鶴ステークスは私の出資馬のマグナレガーロが単勝一倍台の断然の一番人気に支持されていた。このレースの馬券はマグナレガーロの単勝だけを買った。
いよいよレースである。出遅れて最後方だったプロスパラスデイズが向正面で捲るように上がってきた。そして、先頭に並んだ。ペースを乱されるのではという不安が頭をよぎったが、我が愛馬マグナレガーロは終始三番手あたりの好位で落ち着いていた。そして、四コーナーで先頭に並ぶと、直線で抜け出して後続を突き離した。直線では安心して見ていられた(と言いつつ「そのまま!」と叫び続けていたが)。終わってみれば後続に三馬身差をつける快勝だった。
というわけで我が愛馬マグナレガーロの勝利である。愛馬の勝利を確認すると、口取りの集合場所まで向かった。メインレースの口取りはサンビスタのチャンピオンズカップ以来である。今回は準オープンとはいえメインレースだ。それなりの人がウイナーズサークルに注目していた。口取り写真を撮り終わった後、しばらくバックヤードの入り口で待たされたが、その時にちらっと目に入ったテレビの映像を見ると、東京のメインレースでもマグナレガーロと同じシルクの勝負服の馬が勝ったようだ(後で調べたらインビジブルレイズで、こちらは人気薄)。その後はクラブの職員の方がゼッケンを持って写真を撮ってくれた。シルクホースクラブではこのようなサービスもやっているのである。
馬券の方はというと最終レースも見事に外れ、惨敗だった。一応京都メインレースは当たっているのだが、マグナレガーロの単勝だけなので大して儲けにはならなかった。一日トータルの収支はマイナスである。絵馬に書いた願い事のうちメインの部分は叶ったのだが、括弧内の部分は叶わなかったようである。「ついでに」の部分は叶わなかったものの、メインの願い事が叶っただけでも嬉しい。さすが、馬と勝負事の神様である。
その四週間後から、中央競馬は無観客開催となってしまった。新型コロナ騒動の影響である。そして、それはこれを書いている八月の時点でまだ続いている。無観客でも競馬が開催されてネットで馬券を買えるということはありがたいことであるが、早く再び競馬場で競馬を生観戦したいものである。一日も早くその日が訪れて、普通に競馬を楽しめる日常が戻ってくることを切に願う。家でテレビを見ながらパソコンで馬券を買うのもいいが、やはり競走馬達の勇姿を現地で生で観るのが競馬の醍醐味である。それに、無観客開催だとその日の様に口取り式に参加する機会もない。今度は、コロナ騒動が早く治まり、競馬が平常通り開催されることを祈りに行こうか。