ペルーサという馬をご存知だろうか?記録よりも記憶に残る馬である。毎度のように大出遅れ。それでもGIでもGIIでも掲示板に載るぐらいに好走する。「出遅れさえしなければ勝てるんじゃないの?」そう思わせておいて、たまにまともなスタートをした時は精彩を欠いて惨敗する。いわゆる「善戦マン」なのだが、それだけではなく出遅れという「脚質」が印象深い馬だった。
ペルーサの現役当時、私が一口クラブで出資している馬にも、その様な馬がいた。一部では「ダートのペルーサ」と言われていた。スーパーノヴァという馬である。
私はオーナーブリーダーであるグランド牧場のファンである。ファンになったきっかけは粋な名前の馬が多いからだ。カミワザ、ホンモノ、イッポンゼオイ、オトコップリなど粋な馬名は枚挙にいとまがない。そのグランド牧場のホームページを見るとユニオンに提供した馬の紹介があった。グランド牧場はユニオンの株主であり競走馬を提供しているようだった。ファンになった理由は馬名を付ける際のネーミングセンスに惹かれたというものなので、どちらかといえば「生産者グランド牧場」よりも「馬主グランド牧場」のファンなのだが、一口出資するのなら馬主はそのクラブ(と連携している競走馬所有会社)になるので「馬主グランド牧場」という馬は当然のことながら出資しようがない。というわけで「生産者グランド牧場」の馬に出資すべく、ユニオンオーナーズクラブに入会することとした。
その時、初めて出資した馬がサンビスタだ。チャンピオンズカップ、JBCレディスクラシックのGI2勝を含む、ダート重賞を6勝した名牝である。一口馬主自体は別のクラブで前からやっていたので、ビギナーズラックではないのだが、ユニオンオーナーズクラブでの最初の馬が期待以上の大活躍をした。
その後、毎年1頭ずつユニオンでグランド牧場生産馬に出資していたが、2013年生まれの世代の募集馬ラインナップを見たところ、グランド牧場生産馬は1頭も募集されていなかった。ユニオンの2013年生まれの世代には1頭も出資しないかもしれない。そこで、まだ募集が締め切られていなかった2012年生まれの世代に追加で出資しよう。その世代の馬はすでにランドザスターズという馬に出資していたのだが、もう1頭のグランド牧場の生産馬に募集締め切りギリギリで出資することに決めた。
その駆け込みで出資した馬がスーパーノヴァである。「超新星」という意味だ。父のサウスヴィグラスはダート短距離を中心に活躍している種牡馬で、地味な割にはよく走る。母キハクはグランド牧場産で現役時代は馬主もグランド牧場だった馬だ。その父はアサティスというグランド牧場御用達の種牡馬で、コテコテのダート血統だ。
もちろんその馬は血統的に芝では走りそうにないため、ダートでの活躍を期待していた。デビュー戦は3着。2戦目も出遅れながらも最後に良い脚を使い、3着だった。2歳の11月の時点で2戦してともに3着に善戦。そのうち未勝利ぐらいは間違いなく勝つだろう。そう思われた。
しかし、その後はなかなか結果が出ない。しかも、毎度のように出遅れる。出遅れ癖は治らないものの、たまに3着や4着に好走して期待を持たせるが、勝ちきれない。
そして3歳の9月。ここで5着以内に入らなければ当時あったスーパー未勝利にも出走できないというレースでも、他に大出遅れした馬が2頭いたせいで目立たなかったが相変わらず出遅れて7着に敗れ、中央の未勝利戦には出走できなくなった。
スーパー未勝利への出走権利が無くなったスーパーノヴァは、南関東の川崎に移籍することとなった。一旦、転籍して中央競馬への復帰を目指すとのことで、一口ファンドは継続となった。グランド牧場の生産馬が多く所属している佐々木仁厩舎の所属となった。中央で3着3回と好走している馬であり、出遅れ癖さえ解消されれば500万条件でもいい勝負ができる実力はあると思われる。ぜひとも川崎で活躍して中央に復帰して欲しいと思った。
移籍後初のレース道志川特別は勝てると思って期待していた。出遅れることなく、まともなスタートだった。しかし、結果は4着。地方に移籍してもジリ脚は健在だった。
移籍後2戦目は「力で勝負!古代怪獣ゴモラ杯」というレースだった。妙なレース名だが、この日の川崎は「ウルトラ怪獣たちが競馬場をジャック!?」というイベントをやっていて、全てのレースに怪獣の名前が付いていた。ウルトラ怪獣のイベントをやっているんだから宇宙関係の馬名であるスーパーノヴァが活躍するに違いない。もっとも、スーパーノヴァ(超新星)に生命が発生する可能性は極めて低いので、その恒星系に怪獣が生息しているという可能性は限りなくゼロに近いのであるが。
レースのほうは例によって後方からのレースだったが、相変わらず直線だけは本気を出した。それでも前の3頭には届かずに4着だった。善戦はするが、勝ちきれない。それは中央でも南関東でも変わらなかった。
その後も最後方から直線だけ物凄い脚を使って追い込んで掲示板入りするが勝ちきれずというレースが続き、出遅れも多かった。初勝利を収めたのは4歳の11月かえで特別である。2年前の2歳秋にデビュー戦、2戦目と連続3着の好成績を挙げた時は、すぐにでも勝ち上がると期待していたのだが、それから2年経ってようやくの勝利である。思えば長い道のりだった。
元中央馬が地方に移籍した後に中央に復帰するには、3歳のうちなら2勝を挙げれば良いが、4歳以降は3勝する必要がある。スーパーノヴァはあと2勝必要だ。
その後2戦して4着、2着と勝ちきれなかったが、翌年1月に行われた「佐々木竹見カップジョッキーズグランプリ ヴィクトリーチャレンジ」で2勝目を挙げた。相変わらず出足が悪く後方待機となった。しかし、2周目向正面から徐々にポジションを上げていった。4角で3番手まで上がっていくと、直線ではグイグイ伸びた。そして、先に抜け出したエスシーカレントをきっちり捉えた。ジョッキーシリーズだったので抽選で川崎リーディングの山崎誠士騎手が騎乗したのだが、それが縁でその後も山崎騎手のお手馬となった。
中央復帰まであと1勝となったが、その後勝ちきれず、その年一杯で中央復帰を断念してファンド解散となった。善戦すれどなかなか勝ち上がれない。中央の1勝クラス以上でも勝ち負けになるぐらいの力があると思っていただけに残念である。
私の出資権が無くなった後は園田に移籍して3勝を挙げた後、佐賀に移籍となった。佐賀記念には2年連続で出走した。佐賀記念の馬柱を見て、「まだこの馬が私の出資馬だったらな」と思った。結果は2年とも2桁着順だったが、元出資馬が交流重賞に出てくるのは嬉しい。
そのスーパーノヴァも2019年3月以降勝ち星を挙げられず、岩手競馬を経て高知競馬に移籍していた。高知競馬は高齢馬が活躍しやすい環境なのか、他の地区で走った馬が新天地を求めて転厩してくる場合が多い。そこは各地の競馬場を賑わせてきた競走馬たちによる往年のオールスター戦が行われている競馬場なのである。9歳になったスーパーノヴァはそこに移籍していた。
2021年6月11日、10歳となったスーパーノヴァが高知第6レースに出走した。りるらいぶの養分協賛「リルちゃんお疲れ特別」という何だかよく分からない名前の協賛レースだ。6番人気と低評価のスーパーノヴァは相変わらず出遅れたが、最後の直線で物凄い脚を繰り出し、先頭でゴールを駆け抜けた。3年3ヶ月ぶりの勝利である。もともと高齢馬の活躍が多い高知競馬では珍しくはないのかもしれないが、10歳にして勝利である。まだまだ現役でやれる。元出資者として、この馬がまだ頑張っているのは嬉しい限りだ。
その後もスーパーノヴァは10歳という高齢ながら現役を続けている。長い現役生活の中で私が出資していた中央・南関時代よりもそれ以降のほうが長いが、元出資者として引退するまでこの馬の勇姿を見届けていきたい。機会があったら高知まで行って生で観戦したいものだ。それまで引退せずに待ってておくれよ、スーパーノヴァ。